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August 18, 2005

愛読書。

 誰にでも心に残る一冊、もしくは、短編があると思います。
 何度も頁をめくらなくても、ことあるごとに心の中に浮かんでくる作品。
 小説の登場人物の言動をリアルに感じて
 「あれは私(あるいは、僕)だ」と勝手に感情移入してしまう作品。
 太宰治さんの作品に対する感想に、こういうものが多いように感じますが、
 わたしの周りだけかしら。。。
 それは、彼が非常に普遍的な苦悩を、個人的な苦悩として
 昇華しているからでしょう(たぶん)。

 個人的に「これはわたしだ!」と思ってしまった登場人物は
 『新青年傑作選怪奇編 ひとりで夜読むな』
 に収録されている『本牧のヴィナス』(著/妹尾アキ夫)の「管理人」です。

 以下ネタばれになっておりますので、
 未読の方、これから読まれる方は気をつけてください。

 

 主人公は嫌人症の男です。

嫌人症の男にとって、ただ一人の隣人の管理者は不気味な存在だった。しかも彼は戦慄すべき告白を、嵐の夜にもたらした。(『新青年傑作選怪奇編 ひとりで夜読むな』より引用)

 男にとっての楽しみは、借りた部屋を居心地よく整えること。
 他人になどまるで興味がないのです。
 ある日、男は管理人が自分の部屋を覗いていることに気がつきます。
 男はちょっとしたいたずら心をおこすのですが、
 それに対する管理人の尋常ではない反応に驚きます。
 そして、嵐の夜に管理人は男の部屋を訪れます。
 管理人は男に向かって
 「あなたは知ってますね?……なアに、知ってたって構いやしない」
 と狂気のように叫ぶと、恐ろしい告白をしながら
 あろうことか!男の部屋をメチャクチャにし、一つの箱を取り出すのです。

 文中に漂う異様な熱が読者を高揚させ、震撼させます。
 しかし、しばらくすると「?」が頭をもたげます。
 それは「何故、管理人は逃げなかったのか?」という問いです。
 しかし、この管理人はわたしなのです(勝手に!)。
 身につまされてしまいます。


 『新青年傑作選怪奇編 ひとりで夜読むな』
 の最後に、編集部から、
 「瀬下耽氏、米田三星氏、星田三平氏、橘外男氏の連絡先が不明です。
 ご連絡をいただければ幸いです」の一文が。
 涙。。。
 一世を風靡した橘外男さんの連絡先が分からないって!
 兵どもが夢のあとですね。

 『「新青年」の頃』
 乾信一郎さんが橘外男さんに関する面白いエピソードを
 書いています。
 橘外男さんという名はペンネームではなく正真正銘
 本名だということ。
 父親が外交官になってもらいたいという願いを込めて
 「外男」と名づけたそうです。

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